アメリカで最も有名な詩人のひとりがシルヴィア・プラスです。
彼女の作品のみならず、壮絶な人生を送ったことでも知られています。
英語の詩を理解することは、日本人にとって非常に難易度が高いです。
英語がわかっている必要があるのはもちろんですが、それに加えて詩の構成や英語圏の人の感性も理解しなくてはいけません。
小・中学校の頃、4年間アメリカのニューヨークで過ごしました。
社会人でも再びニューヨークに留学した経験から、英語の重要性、勉強方法、英語圏の文化などを記事にしています。
英語の詩はとても難解です。
ネイティブが読んでも理解できないものがほとんどなので、簡単な言葉で訳し、背景なども交えて解説したいと思います。
おすすめの英語の詩は、こちらの記事でもご紹介していますので、合わせてご覧ください。
【英語圏の教養】知っておくべき有名な英語の詩【おすすめ10選】
シルヴィア・プラスの人生
シルヴィア・プラス(1932~63)はアメリカのマサチューセッツ州出身の詩人です。父親は生物学の教授でしたが、幼いころに亡くなっています。
シルヴィアは幼少期から優等生で文学的な野心を持っていましたが、繊細で精神的に不安定な一面もあり、自殺未遂も起こしていました。
その後、イギリスのケンブリッジ大学に渡り、詩人のテッド・ヒューズと出会い結婚します。
ヒューズの作品がシルヴィアの作品に影響を与える一方で、ヒューズの不倫にも悩まされ、後に離婚し精神的に追い込まれます。
その精神状態の中、”Lady Lazarus”や”Daddy”などの傑作を生みだしました。
1963年の2月に、彼女は二人の子供を残し、オーブンに頭を突っ込み自殺しました。
Lady Lazarus
Lady Lazarus I have done it again. One year in every ten I manage it—— A sort of walking miracle, my skin Bright as a Nazi lampshade, My right foot A paperweight, My face a featureless, fine Jew linen. Peel off the napkin O my enemy. Do I terrify?—— The nose, the eye pits, the full set of teeth? The sour breath Will vanish in a day. Soon, soon the flesh The grave cave ate will be At home on me And I a smiling woman. I am only thirty. And like the cat I have nine times to die. This is Number Three. What a trash To annihilate each decade. What a million filaments. The peanut-crunching crowd Shoves in to see Them unwrap me hand and foot—— The big strip tease. Gentlemen, ladies These are my hands My knees. I may be skin and bone, Nevertheless, I am the same, identical woman. The first time it happened I was ten. It was an accident. The second time I meant To last it out and not come back at all. I rocked shut As a seashell. They had to call and call And pick the worms off me like sticky pearls. Dying Is an art, like everything else. I do it exceptionally well. I do it so it feels like hell. I do it so it feels real. I guess you could say I’ve a call. It’s easy enough to do it in a cell. It’s easy enough to do it and stay put. It’s the theatrical Comeback in broad day To the same place, the same face, the same brute Amused shout: ‘A miracle!’ That knocks me out. There is a charge For the eyeing of my scars, there is a charge For the hearing of my heart—— It really goes. And there is a charge, a very large charge For a word or a touch Or a bit of blood Or a piece of my hair or my clothes. So, so, Herr Doktor. So, Herr Enemy. I am your opus, I am your valuable, The pure gold baby That melts to a shriek. I turn and burn. Do not think I underestimate your great concern. Ash, ash— You poke and stir. Flesh, bone, there is nothing there—— A cake of soap, A wedding ring, A gold filling. Herr God, Herr Lucifer Beware Beware. Out of the ash I rise with my red hair And I eat men like air.
Lady Lazarus (和訳)
またやった 10年に一度のペースで わたしはやる 歩く奇跡ね 皮膚は ナチスのランプシェードみたいに光って 右足は 文鎮 顔ときたらのっぺりとした ユダヤのリネン ナプキンを剥いでごらん あなた あたしの敵 怖い? 鼻と 眼と 歯のひとそろい どう? 酸っぱい息も 一日すれば消える もうすぐ もうすぐに 墓に吞まれた肉体も あたしには居心地がよくなる そうして笑顔を絶やさない女になる まだ30よ 猫みたいに9回は死ねる これは3回目 どうってことはない 10年を無にするなんて 吹けば飛ぶようなもの ピーナッツをかじりながら連中が やってきて あたしの手足が剝がれていくのを見物する たいしたストリップショー みなさん あたしの手がこれ 膝がこれ 骨と皮ばかりだけど それでも前と変わりはしない 同じ女 はじめての時は10歳だった あれは事故だった 2度目は本気だった 最後まで仕遂げて帰ってこないつもりだった ぐっと丸まって 貝みたい みんなあたしを呼び続けて 真珠に張り付く虫のように取り去った 死ぬことは アートと同じ ほかのことと同じように あたしは死の達人 地獄を感じるようにわたしはやる すごく生々しく 天職のようなものかもしれない 狭いところでやるのは簡単 じっとそこにいるのも簡単 派手に 昼日中の復活 いつもの場所へ いつもの顔へ いつもの野蛮で 嬉しそうな叫びへ 「奇跡だ」 これでくらっとする お金をとるわよ あたしの傷を見る料金 あたしの心臓の音を聞く料金 本当に儲かる ほかにも料金がかかるわ とってもたくさん 一言話すのも 触るのも 血の一滴にも 髪の毛とか 洋服の切れ端とか そうよ お医者さん あたしの敵のあなた あたしはあなたの作品 あたしはあなたの貴重品 純金の赤ん坊 それが溶けて叫びになる あたしは転がって燃える ちゃんとあなたが心配していることはわかるわよ 灰 灰ばかり あなたは突っつき かき混ぜる 肉も 骨も 何もない 石鹸も 結婚指輪も 金の詰め物も 神さま 悪魔さま 気をつけて 気をつけてね 灰の中から 赤い髪をなびかせてあたしは復活し 空気みたいに人を食べる
解説
ラザルス(ラザロともいう)は聖書でイエスにより死者の世界から甦らされた人物です。
タイトルは死から蘇る自分をラザルスに重ね合わせ引用されています。
主人公は誰?
“I have done it again.
One year in every ten
I manage it——”
“またやった
10年に一度のペースで
わたしはやる“
ここの「やる」とは「自殺」のことです。
シルヴィア自身も自殺未遂経験があることから
詩の主人公はシルヴィア自身と考えていいでしょう。
詩の序盤では、自己嫌悪をにおわせる表現や、皮膚、足、顔などの部分的な体を描写するなど、自分自身に対する違和感のようなものを感じさせます。
攻撃的になる
“Peel off the napkin
O my enemy.
Do I terrify?——
The nose, the eye pits, the full set of teeth?
The sour breath
Will vanish in a day.”
“ナプキンを剥いでごらん
あなた あたしの敵
怖い?
鼻と 眼と 歯の全部 どう?
酸っぱい息も
一日すれば消える”
このあたりから、他社に対し挑戦的ともとれる表現になります。
“Dying
Is an art, like everything else.
I do it exceptionally well. “
“死ぬことは
アートと同じ ほかのことと同じように
あたしは死の達人”
死のとらえ方に対するシルヴィアの思想も垣間見れます。
敵の正体
詩の後半に向けて、どんどんと大きくなる「敵」に対し、蘇って見せるという強い意志が表現されています。
“Herr God, Herr Lucifer
Beware
Beware.
Out of the ash
I rise with my red hair
And I eat men like air.“
神さま 悪魔さま
気をつけて
気をつけてね
“灰の中から
赤い髪をなびかせてあたしは復活し
空気みたいに人を食べる“
これは憶測ですが、詩の中の「敵」は別れた夫のテッド・ヒューズをモデルにしているのではないかと言われています。
まとめ
シルヴィア・プラスは強気な作品が多く、初期のフェミニズムの象徴としても語られることもあります。
自分自身の才能を信じながらも、世の中の女性の扱いなどと葛藤をしながら、名作を生みだしました。
活動していた時期も比較的最近であり、詩の中では比較的読みやすいと思います。
英語圏で特に有名な詩はこちらの記事でまとめていますので是非ご覧ください。