アメリカの文学作品で最も有名なものを聞かれたら、The Great Gatsby(華麗なるギャッツビー)は間違いなく候補に入ります。
日本が誇る村上春樹もこの作品を絶賛し、影響を受けています。
2013年にはレオナルド・ディカプリオ主演で映画化もされておりますが、なぜこの作品は特別なのでしょうか?
有名なだけあって、あらゆる場面で作品の中のセリフが引用されておりますので、知ってると知的に思われるかもしれません。
時代背景
この作品が出版されたのは1925年です。作者はスコット・フィッツジェラルドです。
1920年代のアメリカは、第一次世界大戦後で戦地になった欧州と違い、空前の好景気を迎えていました。
女性が車を運転する、スポーツをする、タバコを吸う、ショートヘアにするなどアクティブになってきた時代である一方で、当時は1920~1933の禁酒法の真っただ中でした。
登場人物
ジェイ・ギャツビー Jay Gatsby
主人公の30代前半の謎の大富豪。デイジーと陸軍将校として交際するも、第一次世界大戦で戦地に送られ、帰ったころにはデイジーはトムと結婚していた。デイジーを奪い返すことに必死になっている。
ニック・キャラウェイ Nick Carraway
物語の語り手(30歳)。中西部の裕福な名家の出で、イェール大学を卒業し、ニューヨークの証券会社に就職した。ギャッツビーの隣の家に住んでいる。
デイジー・ブキャナン Daisy Buchanan
物語のヒロイン。ニックの親戚でトムの妻。ギャツビーの元恋人
トム・ブキャナン Tom Buchanan
デイジーの夫で、ニックのイェール大学時代の学友。資産家の御曹司で頭脳明晰・スポーツ万能だが、乱暴で浮気性。
ジョーダン・ベイカー Jordan Baker
デイジーの古くからの友人で、女性プロゴルフプレイヤー。
あらすじ
裕福な家庭に育ちイェール大学を卒業しているが、どこかぱっとしないニックが、ニューヨークの証券会社に就職したのをきっかけに、ロングアイランドのウェスト・エッグに引っ越します。ニックの周りのも、金持ちばかりで、学友のトムと親戚のデイジーは夫婦で、たびたび豪華な自宅に招待されます。デイジーの友人で、女性プロゴルファーのジョーダンもいつも行動を共にします。
ニックがウェスト・エッグに住んでいることを話すと誰もが、謎めいた富豪ギャッツビーの話をします。毎晩のように豪華なパーティーを開いていますが、誰もギャッツビーを見たことが無いのです。そんなギャッツビーからニックにパーティの招待状が届きます。
ニックがパーティーに参加すると、そこにはジョーダンもいました。そこでニックはジョーダンとともにギャッツビーに合います。ニックはギャッツビーと仲良くなりますが、次第にギャッツビーは元恋人のデイジーと再開するために、ニックやジョーダンに近づいたことが分かります。
ニックはギャツビーのため、学友のトムを裏切ることをためらいながらも、デイジーを引き合わせます。トムの浮気癖に愛想をつかしていたデイジーも、ギャッツビーとの恋に燃え上がりました。ギャッツビーは戦争に行った後の5年間を取り戻そうと、デイジーに「トムを愛したことは一度もなかった」とトムに言うように求めます。しかし、トムはギャッツビーの秘密を調べており、みんなの前で、ギャッツビーはもともと貧しい家庭の出身で、富を得るために禁酒法下での酒の密輸や株式市場の操作などに手を染めていたことが明らかになります。
秘密を暴かれ、一瞬取り乱すギャッツビーと、それを見て混乱するデイジーは、その場を抜け出し、デイジーの運転する車で家に向かいます。その途中、トムの浮気相手が道に飛び出し、引いて死なせてしまいますが、動転したデイジーは逃走してしまいます。現場に居合わせた人は、犯人は黄色い車に乗っていたと証言しました。
ギャッツビーはデイジーが落ち着くのを待って、二人で逃げようとします。デイジーからの連絡を待っていたギャッツビーのもとに現れたのは、銃を持った殺された浮気相手の夫でした。ギャツビーは背後から撃たれ命を落とします。ギャッツビーの葬儀には、ニック以外誰も出席しませんでした。
有名な英語セリフ
女の子はバカのほうがいい
“I hope she`ll be a fool. Tha
t`s the best thing girl can be in this world, a beautiful little fool.”
「彼女はバカに育てばいいわ。この世で女の子が幸せになるには、美しくバカでいることよ」
物語の序盤にニックがトムとデイジーの家に呼ばれたとき、デイジーがニックに娘の様子を聞かれて、このように答えています。トムの浮気に気づいているデイジーが、嫌気がさしているシーンです。
デイジーは物語のヒロインですが、彼女のことを好きになれない読者は多いはずです。
物語には、デイジーの娘はほとんど登場しなく、気にかけている様子もありません。
最終的にも、デイジーは自分の起こした事故の罪をギャッツビーのせいにしてしまいます。
これはギャッツビーが貧しい家庭の出身とわかったため、身分の低い人間が身分の高い人間の犠牲になるのは当たり前という、上流階級の価値観と捉えることもできます。
過去は変えられる
“You can`t repeat the past” (ニック)
過去をやり直すことはできない
“Can`t repeat the past?, why of course you can.”(ギャッツビー)
過去をやり戻す?簡単なことじゃないか!
ギャッツビーはデイジーと恋人だったころの5年前に戻りたいと、トムとの関係を一切無かったことにしようとしました。これに対しニックは諭しますが、ギャッツビーは未来のために、完璧な過去を再び作ろうとしています。
関心が薄い人たちだ
“They were careless people, Tom and Daisy-They smashed up things and creatures and then retreated back into their money or the vast carelessness.”(ニック)
「トムとデイジーは関心が薄い人たちだ、物も命も粉々に打ち砕いておいて、さっさと身を引き、自分たちの金や関心の薄い世界に戻っていった。」
ギャッツビーが殺された後の葬儀には、ニックがデイジーを呼ぶも、デイジーとトムは居留守をつかって現れませんでした。金持ちの人間の、他人への関心の無さについてニックが嘆いているシーンのセリフです。
old sport
“old sport”(ギャッツビー)
「友よ」
ギャッツビーが親しげに人を呼ぶときに使う”old sport”という表現ですが、ギャッツビー語です。
日本語訳の小説でも様々な訳され方がされていますが、”my friend”などと同様の使い方が多いので、「友よ」としました。
ギャッツビーが海難事故で助けた富豪に教わった言葉とされており、ギャッツビーにとって紳士の言葉使いとして使っています。
なぜ人気なのか
この作品が人気な理由は、アメリカンドリームを体現しているからであるといわれています。
描かれた時代背景が、日本でいうバブル景気のよな時代で、誰しもがギャッツビーのような、豪華な暮らしにあこがれていました。しかし、この小説が出版された後の1929年には世界恐慌が起こり、この物語が恐慌を暗示していたようにも捉えることが出来ます。
また、登場人物にもギャッツビーのように成功した人間でも傷つきやすい面があったり、デイジーのように天真爛漫なヒロインでも残酷さがあったりと、それぞれ複雑さがあるところもおもしろいところです。