パンデミックの影響で働き方の変化に対応することが余儀なくされています。
出社を制限し、自宅でどのように社員を働かせるか、各企業で試行錯誤してきました。
在宅勤務の社員をどのように管理するか?どのように評価するのか?
そういった議論の中で、ジョブ型雇用などを進める動きが広まってきました。
しかし、ブラジルのセムコという会社は30年以上も前から社員を管理することを辞めています。
いまでこそ、リカルド・セムラーの考えを再確認したいと思います。
リカルド・セムラーとは
リカルド・セムラーは1959年にオーストリアで生まれた、ブラジルのコングロマリット企業セムコ社のCEOです。
リカルドが父親から会社を引き継いだのはまだ21歳の時でした。
当時は倒産寸前の中小企業でしたが、大胆な改革により、売上高は6年間で3,500万ドルから2億1,200万ドルにまで急成長しました。
今ではブラジルで最も人気のある企業で知られています。
死ぬ前に何がしたい?
リカルドのTED TALKは死ぬ前にやりたいことは何か?というテーマから始まります。
リカルドは毎週の月曜日と木曜日を「死に方を学ぶ日」と決めています。
悪性黒色腫で亡くなる家族が多く、いつか自分も医師に余命を告げられる日がくると考えたそうです。
そして余命が告げられた後の過ごし方について考えるようになりました。
- 子供と時間を過ごす。
- 旅行に行く。
- 山登りをする。
など時間があればやろうと思っていたことを、思い浮かべました。
そこで、毎週月曜日と木曜日は、死ぬまでにやりたいことをやる日にしました。
仕事の反対はレジャーだという人が多いですが、実はレジャーはとても忙しいので、リカルドは仕事の反対は余暇だと言っています。
人生たくさんお金がある時は時間が無く、時間を手にしたときは健康とお金がありません。
会社で考えると
セムコ社はコングロマリット企業で様々な事業を展開しており、大変複雑な企業体になっています。
そこでリカルドは社員を管理するのを辞め、社員に任せることを試しました。
- いつ出社するか
- どこに出社するか
- 何を着るか
- 何を話すか
細かいルールをことごとく撤廃しました。
勤務時間などを社員に任せることで、社員に「82歳の死ぬ前に登山に行くのではなく、来週行ったらどうだい?」と話したそうです。
なぜ管理するか?
そもそもなぜ社員の出社時間を知りたいのでしょうか?
また、立派な本社は自分たちは一流の企業だというエゴ以外で、何のために建てるのでしょうか?
そのエゴは社員の通勤時間2時間と通勤費を払う価値があるのでしょうか?
このようにひとつひとつおかしいと思うことについて、問題を解決するための課題を考えていきました。
どうやって人材を見つけるか?
セムコの採用面接は2~3回の面接で、一生勤める会社を選ぶというものではありません。
会社に興味がある人であれば、面接に来ます。
その時、いかに会社に合っているかをチェックボックスにレ点をつけてみるのではなく、直感で見ます。
後日、また会社に招き、午後中、もしくは一日中自由に会社を見てもらい、好きな社員と話してもらいます。
そして実際に働くにふさわしい会社かどうかを自分の目で判断してもらいます。
リーダーの選び方は?
部下に求められないリーダーは会社には必要ありません。
なので、将来の部下になる人たちから評価をもらいます。
6か月ごとに匿名で評価をもらい、リーダーの座に留まるかを決めていきます。70%~80%の支持の評価が得られなければ、解任となります。
自分の報酬を自分で決めさせては?
実は報酬を決めるには3つの情報しか必要ありません。
- 会社の中での給与。
- 同業他社の給与?
- 会社がどれだけ利益が出せているか?
そこで、誰がどれだけ利益を出したか?誰が経費をいくら使ったか?同業他社の給与の状況などのあらゆる情報が手に入るパソコンをカフェテリアに置きました。これが25年前です。
情報を開示していくと、そもそも経費リストを見る必要もないし、誰がどこで勤務しているかも知る必要がないことに気づきました。
当時は14か所あったオフィスのどこに出社してもいいし、どこにいるかも知らせなくてよくしました。
社員は5000人近くいますが、人事の社員は2人だけで、そのうち1人は先日定年退職しました。
聡明さについて
こうして取り組んでいるうちに、これらはすべて聡明さに対する取り組みであると気づきました。
リカルドは営業にこのように言っています。
「もし、1週間で達成すべきノルマを早く達成したら、ビーチへ行ってください。」
「余計な仕事をして、余計な仕事によるほかの仕事を増やさないでください。」
聡明さをはぐくむためには、情報を開示し民主的でなくてはなりません。
そのため、セムコの取締役会のうち2席は、その日最も早く入室する2人の席にしています。これが清掃員だったこともありますが、ポイントはこれによりみんなが誠実になるところです。
教育について
こうした聡明さをもっと人生の早い段階で育てることが出来ないかと考え、財団を立ち上げ学校を作りました。
現在の学校の在り方はおかしいです。もし一から学校を作り直すとしたらどのようになるか?を考えました。
そして先生の役割を2つに分け、子供たちを見守る役割を設けました。現在はグーグル先生に比べ、学校の先生が知っていることはごくわずかなので、「教える」のではなく「見守る」ようにしています。
そして先生には、シニアを積極的に活用しています。理由は彼らは人口の25%もいる、聡明さを兼ね備えた人材だからです。
そして勉強することは
- 「人間の器のはかり方」
- 「自己表現の仕方」
- 「愛」
- 「死」
- 「なぜ存在するのか」
など私たちがまだ知らないことです。
学校でも大人がルールを作りません。
その代わり子供たちにルールを作ってもらいます。
するとだいたい大人が作るのと同じようなルールを作ってきます。
ただそれは子供たちが自分たちで考えて作ったルールなので価値があります。
もちろん実際にルールを破った子供に、ペナルティを与えるか判断するかも子供たちです。
そしてこの学校では17歳までのブラジルの一般的な教育カリキュラムにも沿って教えています。
ただ、生徒のペースに合わせて、理解が不十分な子供には一年遅らせたり、先に進みたい子供は先に数年進んだりと調整します。
例えば教育のプログラムには自転車の作り方などがあります。
自転車を作るのに円周率を使わないことには作れません。
しかし通常教育を受けた人は、円周率を使ってなにかに応用することはできません。
このように聡明さを身に付けてもらおうとしています。
まとめ
日本にも「セムラリスト」といわれる熱狂的なセムラーファンもいるそうですが、TED TALKSに出演した当時までは、かなり奇抜な考え方として批判的な意見も多かったようです。同じような経営をしても、絶対に成功しないという意味で、著書は「奇跡の経営」と言われています。
しかし、今聞くと、現在の価値観などに共通していて、そんなに違和感がないと思います。
なぜそれをやるのか?
これを3回繰り返すことで、本当に必要なことか?本質はなんなのか?にたどり着けると思います。
形式を重んじるがために生産性の低い日本人こそ触れるべき考え方だと思います。
他にも知っておくべき起業家のスピーチをこちらの記事でご紹介していますので是非ご覧ください。